1 無償で不動産を借りている場合、被相続人の死亡で返還の義務があるでしょうか?
被相続人が不動産を無償で借りていた場合の当該利用権は相続の対象となるでしょうか?
無償で不動産を利用することを使用貸借と言います。貸す方と借りる方には強い人間関係があることが一般的でしょう。
被相続人が無償で不動産を借りていた場合、被相続人が亡くなると、その無償で借りる権利(使用借権)は消滅するのでしょうか?
民法599条は、借主が死亡したときは、使用貸借は終了すると定めていますので一般的には使用貸借は終了すると考えてよいでしょう。
もっとも、裁判所において例外も認めているので注意が必要です。土地を無償で借りていた者が亡くなった場合には、前述の民法599条によれば、当然に使用貸借は終了すると思われますが、裁判所においてはそのように考えず、利用の期間や実態を考察の上、使用貸借の継続を認めることがあります。建物の場合にはこの様な考え方はあまりとられないでしょう。
2 被相続人が無償で不動産を貸している場合、被相続人の死亡で返還を求めることは可能でしょう?
1は、被相続人が無償で借りている場合についてですが、それとは別に被相続人が無償で貸している場合についてです。この場合について民法は何ら定めを置いておらず、使用貸借が終了するとは規定していません。
そこで、被相続人が不動産を無償で貸していた場合、その不動産の利用者を追い出すことは一般には無理でしょう。
使用期間の満了であったり、使用目的の達成といった事情が起きるまでは当該不動産から利用者を追い出すことはできないでしょう。
もっとも、前述のとおり貸す方と借りる方には強い人間関係があるのが通常であり、かつ、使用貸借に至った経緯等が重要となりますので慎重にその実態を考察する必要があります。
例えば、被相続人が建物を有していたところ、介護施設に入居することとなり空き家になったので、甥に対して「私は、介護施設に入り、この家は空き家になるから、この家で生活していよいよ」と言って、甥がその建物で生活していたような場合を想定してみましょう。
この場合には一般的には被相続人の意志としては、「私が入居施設に入り、生きている限りはこの家で暮らしてて良いよ」というものでしょう。そして、被相続人が入居施設から退所した場合には家を戻してもらうつもりでしょう、また、被相続人が亡くなって相続が始まった時には相続人らに返してあげてくれ、という意志でしょう。そうするとこのような場合には、当該建物を返還してもらえることとなりうるでしょう。
要は、法律をしゃくし定規に当てはめるのではなく、その経緯や実態等を総合的に考察していく必要があります。