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経験豊富な弁護士集団による相続問題のための法律相談は中村・安藤法律事務所

1 医師の相続の特徴

医師が個人経営している場合においては、次のような特徴があるでしょう。
①一般の相続と比べると比較的相続財産が多額に渡るので、紛争が起きやすい要素があるといえるでしょう。
②子供の中に医師がいることが多く、医学部を出るための学費が多額になり特別受益が発生することが多いといえるでしょう。
③当該診療所や病院にある高価な医療機器の評価をどのようにするか、という問題があるでしょう。その経営を相続人の一人が引き継ぐ場合と引き継がない場合で判断が異なり得ます。

2 相続財産が多いことによる特徴

⑴ 相続財産が多いことにより、遺産分割の決め方も比較的紛争となりやすくなります

また、遺言書がある場合でも遺留分の侵害の有無やその額についても紛争となりやすいでしょう。遺留分の額が低廉であれば、相続人同士で多少の譲り合いも起きやすいのですが、遺留分の額が多額にあるとそうもいかずに紛争となりやすくなります。例えば10万円や30万円程度の相違であれば調停や裁判にすることは少ないと思いますが、1000万円や3000万円或いはそれ以上の額ともなるとどうしても調停や裁判となりやすいでしょう。

更に、比較的生前に一部の相続人に対する贈与(特別受益)なども多額となりがちです。一般的に、特別受益の額が低廉であれば、法的にも、また、事実上、問題となりにくくクローズアップされませんが、特別受益の額が高額となるとそうはいかず、問題となりえます。以上からして、相続財産が多額であるということから、他の一般的な相続よりも紛争が起きやすくなると言えるでしょう。

⑵ このような事情を踏まえ、争いごとが起きにくくするにはやはり、遺言書を作成しておくのがよいでしょう。
その内容については、できる範囲で各相続人に均等にしておくことが紛争回避という意味では望ましいのですが、そうもいかないこともあるでしょう。その場合には何故、均等にしないのかも付言事項として記載しておくとよいでしょう。

更に、重要なこととしては、一部の相続人に特別受益がある場合、特別受益としては認めない、という意志をはっきりと記載しておくとよいでしょう。特別受益の持ち戻しの免除の意志表示として、法律的な意味合いを持ちます。私立大学の医学部に進学したことの学費は、特別受益としては認めない、問題視されない、ということがはっきりと確定されうるのです(遺留分侵害の際には問題視されます。)

3 一部の相続人が医学部進学したことによりかかった高額な学費について(特別受益の是非)

一般に、教育費が特別受益に当たるか否かは、被相続人の生前の資産収入及び家庭事情等具体的状況によるとされています。子供のうち、一人だけ私立大学の医学部に進学した場合や海外に長期で留学した場合などには問題となり得ます。

一般に国公立大学や国公立高校に進学卒業した場合と私立大学や私立高校に進学した場合では学費において相当な差額が発生しますが、これについては通常の親の扶養の範囲の支出とされると解されるので、特別受益とは評価されないでしょう。仮に特別受益と評価されるとしても被相続人の持戻しの免除の意思表示があったと推定される、というようにして問題視されることはありません。

他方、前述の私立大学の医学部の学費については相当額となり得ますので特別受益として評価されることは十分にあり得るでしょう。他の相続人が受けた教育内容等にもよりますが、一人だけ私立大学の医学部に進学卒業した場合にはその学費の差額分(通常の私立大学)

4 高額な医療機材の財産的評価について

高額な医療機材の財産的評価については難しい問題があるでしょう。仮に、相続人の一人がこれを引き継ぐ場合には時価を基準に評価されうるでしょう(時価とは市場で売れる額といえるでしょう。)。

但し、型が古いなどの理由で引き取りを希望しないような場合には市場なりで売却する額を基準としつつ、実際に売れないような場合にはゼロと評価せざるを営内でしょう。むしろ廃棄費用がかかりマイナスの資産とも評価されるでしょう。

ですからこのようにならない為にも、病院を引き継ぐ人との間で合理的な価格で評価するように互いに譲歩していく必要があるでしょう。即ち、他の相続人が医療機器について適正な額として査定された額に拘りすぎて、病院を引き継ぐ相続人との間で合意が出来ずに新しい機器を購入する、という事となると互いにとって経済的には不利益な結果となるでしょう。そうならないためにも前述の通り、相当額で折り合いをつけるのが合理的でしょう。

5 病院が医療法人化されている場合

医療法人とは、医師または歯科医師が常時勤務する診療所または介護老人保険施設を開設しようとする法人をいい、社団医療法人と財団医療法人に区分されています。
社団医療法人は、金銭その他の資産の出資により設立された医療法人をいいます。
そして、社団医療法人は、①平成19年3月31日以前に設立された場合は、出資持ち分について定めがあるものと、出資持ち分について定めがないものに区分されます。②平成19年4月1日以降に設立された場合は出資持ち分について定めが認められていません。

財団医療法人は、金銭その他の資産の寄付行為により設立されます。寄付者は設立に当たり資産を寄付するので、出資持ち分は存在しません。①平成19年3月31日以前に設立された場合は、解散したときは理事会等で残余財産の処分方法を決め、都道府県知事の認可を受けて処分します。②平成19年4月1日以降に設立された場合は解散時の残余財産は国や地方公共団体に帰属します。

従って、当該医療法人が、持ち分がある社団医療法人か否かが重要となります。
前述の通り、平成19年4月以降に設立された医療法人は持ち分が認められていませんが、それ以前に設立された医療法人については持ち分を有することが認められていました。
亡くなった医師が持ち分を有していた場合には、その持ち分が相続財産となります。この持ち分の評価及びその払い戻しの額が問題となり得ます。

そして、莫大な相続税が発生することもあり得るので生前に対策をしておくことも重要となります。
持ち分の無い医療法人の場合は、社員たる地位(一種の株主のような地位)は相続財産とはなることは無く、そのまま病院経営されることとなるでしょう。もっとも病院を運営・経営する医師がいない場合には病院へ閉鎖されることとなるでしょう。そこにある病院の財産は国や地方公共団体に帰属していくこととなります。

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