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経験豊富な弁護士集団による相続問題のための法律相談は中村・安藤法律事務所

1 代表取締役兼大株主である社長が、円滑に事業を後継者に継がせるにはどうしたらよいでしょうか?

① 株式を生前贈与する方法②諸事情により生前贈与が出来ない場合には遺言書を作成しきちんと株式を後継者に相続させる方法、が望ましいでしょう。
最悪なのはこれらの方法をとらずに、後継者となるべきはずであった人が株式の分散により困惑し、場合によっては経営権も失ってしまうことでしょう。
そのような最悪にならないために、前述の①や②をきちんととっておく必要があるでしょう。
① の方法であれ、②の方法であれ、後継者が思いの外、法外な値段を他の相続人に払わなければならないことが起きますので注意が必要です。

2 例えば、令和3年12月にA社の株式100株をオーナー社長が、後継者である長男に生前贈与した以下の場合を想定してみましょう。

【事例】
オーナー社長が亡くなった時期     令和10年
オーナー社長が亡くなった時点での相続財産  1億円の預金のみ
相続人   長男、次男、三男の3人(法定相続分はそれぞれ3分の1・また、遺留分はそれぞれ6分の1)
各相続人の特別受益の額   長男が令和3年12月に受けたA社の株式100株

① A社の株式が5000万円と評価される場合

相続財産は、特別受益であるA社株式を含めて1億5000万円となり、その3分の1ずつで遺産分割することとなります(遺留分は侵害されていないこととなります。)。長男は既に5000万円をもらっているので、1億円の預金は次男と三男がそれぞれ5000万円ずつで分けることとなります。

② A社の株式が2億円と評価される場合

相続財産は、特別受益であるA社株式を含めて3億円となります。次男・三男は遺留分が5000万円ありますので、1億円の預金は次男と三男がそれぞれ5000万円ずつで分けることとなります。

③ A社の株式が3億円と評価される場合

相続財産は、特別受益であるA社株式を含めて4億円となります。次男・三男は遺留分が6666万円(4億円の6分の1)ありますので、1億円の預金は次男と三男がそれぞれ5000万円ずつで分けた上で、更に1666万円ずつを長男に遺留分侵害請求できることとなります。

株式の評価の時期

令和3年に後継者である長男がオーナー社長から生前贈与を受けた時点では株式の評価が低かった(例えば時価0円、或いは、時価500万円程度)であったにもかかわらず、後継者である長男が努力して、会社の業績を飛躍的にアップさせ、その株式の価値を大幅に上げたような場合には大きな問題が発生します。

即ち、現在の家庭裁判所の実務においては、特別受益の評価(生前贈与された株式等の評価)は、①贈与を受けた時点では無く、②相続が開始した時点となっています。

そうすると前述の様に、後継者である長男が努力して会社の業績を上げたにもかかわらず、結局、次男・三男などが得をすることとなります。

これを防ぐためにも以下の制度を留意したら良いでしょう。

3 除外合意と固定合意について

前述の、長男への事業承継については、「事業承継を円滑に行う為の遺留分に関する民法の特例」という制度を使うと良いでしょう。
この制度の中には大きく2つのタイプの合意((1)除外合意と(2)固定合意)があります。これらを使うことで後継者が保護されやすくなります。
もっともこれらを利用するには、厳格な手続きが必要とされるため、注意が必要です。

除外合意について

後継者が旧代表者からの生前贈与等により取得した株式について、その価額を、遺留分を算定するための財産の価額に算入しないというものです。即ち、一定の要件を満たす場合に自社株式を遺留分の算定から除外するというものです。

後継者が先代経営者からの贈与等により取得した株式等につき除外合意をする ことにより、当該株式等は遺留分を算定するための財産の価額に算入されないため、 先代経営者の相続に伴って、①後継者が過大な金銭的負担を負うことや、さらには②当該株式等が分散することを防止することができます

固定合意について

株式等について、遺留分を算定するための財産 の価額に算入すべき価額を当該合意の時における価額(弁護士や公認会計士や税理士がその時における 相当な価額として証明をしたものに限る。)とすること。
即ち、社株式の価額を相続時ではなく贈与時時点のものに固定するというものです。これにより、後継者が贈与を受けた時点から、その後継者の努力により当該会社の株式の価値が向上したとしてもその向上した分については、遺留分算定のための基礎には含まれないこととなります。

手続きについて

これらの合意については、経済産業省と家庭裁判所への申請が必要となります。
推定相続人全員との間で合意が出来てから、1ヶ月以内に経済産業省に確認申請をする必要があり、更に確認がおりてから1ヶ月以内に家庭裁判所に許可の申請をする必要があります。

これらの合意のための必要書類は以下です。

① 合意の当事者の全員の署名又は記名押印のある次に掲げる書面
 ・当該合意に関する書面
 ・当該合意の当事者の全員が当該特例中小企業者の経営の承継の円滑化を図るために当該合意をした旨の記載がある書面 
②印鑑証明書
③定款の写し
④特例中小企業者の登記事項証明書
⑤合意日における特例中小企業者の従業員数証明書
⑥当該会社の以下の書類
 ・貸借対照表
 ・損益計算書
 ・株主資本等変動計算書
 ・個別注記表
 ・事業報告
 ・附属明細書(勘定科目内訳書を含む)
⑦当該会社が上場会社等に該当しない旨の誓約書
⑧戸籍謄本等
⑨株主名簿の写し
⑩固定合意の場合には、別途、「固定合意により定めた価額が合意の時における相当の価額であることの弁護士等の証明書」が必要となります。

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